creep番外編『包丁の怪』⑬
■■■■■■■■■■■■■
『そろそろ来た?って…何が?』
『女の子』
面倒臭そうに、単語で切り返す氷の女王
ただでさえ温度を感じない声は更に冷え込んでいる
『女の子』っていう言葉も気になったけど、それよりも携帯が氷ついてしまわないか心配だ
メールを確認した直後
背中にじんわり冷たいものを感じながら踵を返し
飛び込むようにしてマサルの部屋に戻った俺は、すぐに女王への短縮ダイヤルを押した
永遠に続くんじゃないかと思うような長い長いコールの後
ふいに繋がる電話
ガサガサとシーツに溺れる音が漏れた後で
『来たの?』と、気怠そうな声が帰ってきた
『悪いな、寝るところだった?』
『そんなのいいから、来たの?』
気遣いなんて物は、奴にとったらスーパーで売ってる冷凍エビみたいなもんだ
カチカチに凍らされて、忘れた頃に解凍して食ってみたって大して美味くはないだろ?
そのくせ忘れた頃に
『気を遣ってくれていたのか』
『ありがとう』
なんて言い出すもんだからタチが悪い
相手はどんな顔して良いんだかわかんないよな
エビも、気遣いも、鮮度が大切なんだよ
女王
女の子かどうかはわからない
だけど、確実に誰かが来た
そう伝えたら
女王は『あー』と一息、小さく唸って
実に面倒臭そうに口を開いた
■■■
奴の話と擦り合わせると事件の始まりは、遡る事、数回前のライブの日では無いかと思われる
その日は新宿でイベントライブに出演していた
どこのバンドもそんなもんだと思うけど、リハーサルが終わってしまえば、本番までの時間はほとんどの場合持て余していた
昼飯を食べたら、ほとんど目的も無く街をふらついたり、本を読んだり、携帯ゲームに熱中したり
それでも余して一眠り、なんて毎度の事だ
あの日も例に漏れずそうだった
会場から近い『大勝軒』でラーメンを腹におさめたら
あてもなく街を回遊していた
実を言うと
細かい事はほとんど覚えていない
無意識って怖いよな
何も考えて居なかった
何の期待も、目的も、興味も持たないで街を歩いていた
もしかしたら
目の前で誰かが居なくなったとしても、気付けなかったかもしれない
『無意識』は
誰かにとっての優しさで
誰かにとっての地雷だ
いつだって問題は
『無意識』の当人が気付かないところで起こっている
そういう意味で
『女の子』は被害者かもしれないな
creep番外編『包丁の怪』
続く
2010-07-13 22:54
nice!(0)
コメント(2)
トラックバック(0)







次回で是非、完結してほしいです(笑)
by 吉田 (2010-09-10 18:56)
次がめっちゃ気になって、夜も眠れません(笑)
by 28 (2010-12-01 23:47)